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東京高等裁判所 平成5年(行ケ)155号 判決

岐阜市木造町11番地

原告

佐藤保郎

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官 荒井寿光

指定代理人

小原英一

花岡明子

伊藤三男

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1  当事者の求めた判決

1  原告

特許庁が、平成4年審判第9467号事件について、平成5年7月22日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

2  被告

主文と同旨。

第2  当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和62年11月26日、名称を「外炎や逆行による疾病を予防できる消臭下着」(後に「外炎や逆行による腎疾患を予防できる下着」と補正)とする発明(以下「本願発明」という。)につき特許出願をした(特願昭62-298781号)が、平成4年3月14日付けで拒絶査定がされた(謄本の認証日は、同年4月21日)ので、同年5月23日、これに対する不服の審判の請求をした。

特許庁は、同請求を、平成4年審判第9467号事件として審理したうえ、平成5年7月22日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年8月12日、原告に送達された。

2  本願の特許請求の範囲の記載

抗菌性のあるゼオライトを練り込みまたは付着固定された布状物、編組状物、マット状物などを下着の前よりうしろに至る下部(2)の内側に使用された外炎や逆行による腎疾患を予防できる下着。

3  審決の理由

審決は、別添審決書写し記載のとおり、本願発明は、特開昭49-25126号公報(以下「引用例1」といい、そこに記載された審決認定の技術事項を「引用例発明1」という。)、実願昭53-162281号(実開昭55-80301号)のマイクロフィルム(以下「引用例2」といい、そこに記載された審決認定の技術事項を「引用例発明2」という。)、実願昭58-79658号(実開昭59-185206号)のマイクロフィルム(以下「引用例3」という。)、実願昭51-169233号(実開昭53-88315号)のマイクロフィルム(以下「引用例4」という。)に記載された発明に基づいて、容易になしえたものであるから、特許法29条2項に該当し、特許を受けることはできないとした。

第3  原告主張の審決取消事由の要点

1  審決の理由中、本願の特許請求の範囲の記載及び各引用例の記載事項の認定、本願発明と引用例発明1、2との一致点及び相違点の認定(審決書2頁10行~5頁5行)は認めるが、相違点についての判断は争う。

2  審決は、本願発明と各引用例の技術内容及び作用効果を誤認して、相違点についての判断を誤り、その結果、誤った結論に至ったものであるから、違法として取り消されなければならない。

(1)  審決は、引用例発明1、2につき、「雑菌の繁殖を防止あるいはしにくくするものである」(審決書5頁10~11行)と認定しているが、誤りである。

引用例1(乙第1号証)には、ゼオライトは脱臭、脱水作用があるので、パウダーにして脱臭、脱水に利用するとあり、実施例には、吸水率とガス吸着量と、グラム当たりの表面積について記載されているが、使うゼオライトに雑菌の繁殖を防止あるいは繁殖しにくくするものとの記載はない。また、引用例2(乙第5号証)には、吸着脱臭紙を付けたり外したりできるパンティが記載されているが、雑菌の繁殖を防止あるいは繁殖しにくくするものとの記載はない。なお、ゼオライト自体に抗菌性はない(特開昭60-181002号公報・乙第10号証6頁左上欄1~5行)。

これに対し、本願発明は、大腸菌、肺炎かん菌、黄色ぶどう状球菌、枯草菌など、いわゆる病原菌に対して抗菌効果があり、下着に付着した細菌に原因のある炎症や、細菌が尿路を逆行侵入することによる腎疾患など疾病を予防できるものであり、本願明細書には、審決の述べるような、単なる「雑菌を殺菌するあるいはその繁殖を防止」(審決書5頁14行)するようなことは、何ら記載されていない。

このように、本願発明と引用例発明1、2とは、目的及び得られる効果が全く違うものであるのに、審決は、大害のない雑菌と病原菌とを区別せず、抗菌と殺菌との違いも認識せず、本願発明を過少評価して、本願明細書に全く記載されていない雑菌に対する効果を対象として、本願発明と引用例発明1、2とが、「清潔で健康な状態に保つという点で、実質的な相違はみられない」(同5頁17~18行)と誤って判断した。

(2)  審決は、「ゼオライトにさらに抗菌性を付与したものを使用して、その効果を高めるようなことは、当業者にとって容易になしえたものであると認められる」(同6頁8~11行)としているが、誤りである。

尿の出口より細菌が入ることによる、尿道炎やぼうこう炎、腎う炎などの疾病は、現在でも、尿路感染症として研究されている重要テーマであり、性器周辺の炎症を防ぐ手段も確立されていないところ、本願発明は、こうした課題に対応する唯一のものであり、皮膚障害がなく、疾病や炎症の予防という顕著な作用効果を奏するものである。

引用例1~4には、上記のような作用効果について開示されていない。

引用例3(乙第4号証)には、硫化銅を付着した繊維糸を含む添布を股部内面に設けた肌着パンツが記載され、引用例4(乙第3号証)には、オリゴジナミー効果を有する金属繊維で織成した織布を内布で覆ったものをパンティの身体下部に装置したものが記載されている。

この引用例3、4に記載されたものは、いずれも金属アレルギーを考慮していない。すなわち、オリゴジナミー効果があるときは抗菌効果を生じ、それは同時に身体に対し金属イオンにより炎症をおこすため危険であり、利用できないものである。

また、審決のいうBXNナイロン糸は、抗菌性ゼオライトを練り込んだ単糸の一種であり、本願発明のように抗菌布を下着の下部に使うものではない。

審決は、引用例1~4記載の発明の作用効果を過大評価して、本願発明の奏する作用効果を過小評価し、「本願発明は、引用例1~4に記載された発明に基づいて容易になしえたもの」(審決書7頁6~7行)であると誤って判断したものである。

なお、被告が挙げる実願昭52-140248号(実開昭53-73111号)のマイクロフィルム(乙第6号証)、実開昭52-129520号公報(乙第7号証)、特開昭52-21951号公報(乙第8号証)には、殺菌や抗菌について何の記載もないし、活性炭など脱臭剤に、殺菌・抗菌効果がないことは公知である。また、特開昭59-133235号公報(乙第9号証)、特開昭60-181002号公報(同第10号証)の技術内容は、イオン交換反応により抗菌化したミクロンオーダーの微粉末であり、その応用として、付着したり糸にしたり、布やニットについて記載があるが、いつも抗菌化できるわけではなく、だめなときもあると明記している。

第4  被告の反論の要点

審決の認定及び判断に誤りはなく、原告主張の取消事由はいずれも理由がない。

1  原告の主張2(1)について

汗、血液、その他の分泌物により皮膚の表面が高い湿度の状態では、特に細菌などの雑菌が繁殖しやすく、不衛生となり、細菌などが繁殖して汗や血液などに含まれる成分を分解し、この分解された物質などが体臭の主たる原因である(引用例4・乙第3号証明細書1頁9~13行、引用例3・乙第4号証明細書1頁11~12行、2頁10~13行、特開昭57-11202号公報・乙第2号証6欄16行~7欄1行)。そして、その結果、皮膚をただれさせたり、かゆみを生じさせたり、化膿させたりする。

ゼオライトが、脱臭、脱水作用や吸湿、吸着作用、イオン交換能力などの機能を有するものであることは、広く知られている(特開昭49-25126号公報・乙第1号証1頁右下欄12~13行、特開昭59-133235号公報・乙第9号証6頁左下欄2~4行、7頁右下欄5~10行)。

上記を参酌すると、汗などの物質の水分と成分がゼオライトに吸着されて、細菌などの雑菌が繁殖しにくい状態になるないしは繁殖しやすい条件が除去されるとともに、ゼオライトの吸湿作用により乾燥状態になり、雑菌が繁殖しにくい状態になるし、また、雑菌が繁殖して成分が分解されて臭気が生じたときでもすみやかにゼオライトの脱臭作用により臭気が除去され、清潔で健康な状態を保つことができることは、明らかである。

したがって、審決が、引用例発明1、2は、雑菌の繁殖を防止あるいは繁殖しにくくするものであると認定し、清潔で健康な状態に保つという点で、本願発明と実質的な相違はみられないと判断したことに誤りはない。

なお、審決は、病原菌その他の細菌を総称する用語として「雑菌」の用語を使用したのであって、このような用語の使用法は誤りではない(引用例3・乙第4号証)。

また、抗菌と殺菌とは、同じような意味に使われている(特開昭59-133235号公報・乙第9号証11頁左上欄9~13行、11頁左下欄下から13~7行、12頁左上欄3~8行、特開昭60-181002号公報・乙第10号証2頁右下欄6~14行)。

2  原告の主張2(2)について

抗菌性のあるゼオライトを使用した繊維、この繊維を使用した布状物などは、すでに知られていることであり、抗菌効果とゼオライトのもつ効果とを合わせて持つようにすることも、すでに広く知られていることである(特開昭59-133235号公報・乙第9号証、特開昭60-181002号公報・乙第10号証)。したがって、ゼオライトとして、さらに抗菌性を付与したものを使用して、その効果を高めるようなことは、当業者にとって容易である。

引用例3、4記載の発明が利用できないという原告の主張は失当である。

なお、原告は、審決の引用する本願明細書記載のBXNナイロン糸は、抗菌性ゼオライトを練り込んだ単糸の一種であり、本願発明のように抗菌布を下着の下部に使うものではないと主張するが、繊維は主として衣料などに使用されるものであり(引用例1・乙第1号証特許請求の範囲、引用例3・乙第4号証明細書2頁4~10行)、繊維が知られていれば、それを用いた織編物ないし衣料はすでに知られていることになる。

したがって、審決の、本願発明は引用例1~4に記載された発明に基づいて容易になしえたものであるとの判断に誤りはない。

第5  証拠

本件記録中の書証目録の記載を引用する。書証の成立は、いずれも当事者間に争いがない。

第6  当裁判所の判断

1  本願発明と引用例発明1、2とが、審決認定のとおり、「ゼオライトを練り込みまたは付着固定された布状物、編組状物、マット状物などを下着の前よりうしろに至る下部の内側に使用した下着である」(審決書4頁16~18行)点で一致するが、「本願では、抗菌性のあるゼオライトを使用して、外部の炎症や腎疾患を予防するのに対し、引用例1、2では、ゼオライトについて抗菌性があるのかどうかについて明記するところがなく、脱臭、脱水作用により臭などを吸着除去し、清潔で健康な状態を保つという点」(同4頁19行~5頁5行)で相違するものであることは、当事者間に争いがない。

2  この相違点に係る本願発明の「抗菌性のあるゼオライトを使用して、外部の炎症や腎疾患を予防する」ことにつき、本願明細書(甲第9号証の4)の発明の詳細な説明の項には、「産業上の利用分野」として、「この発明は、外部の炎症や、細菌が尿道を逆行侵入することによる、腎疾患を予防することを目的とした下着に関する。」と、「従来の技術」として、「従来は、腎疾患の予防を考えに入れた下着は実用されていない。」と、「発明が解決しようとする問題点」として、「従来は、腎疾患を予防することを目的とした下着類は実用されていない。この発明は、下着に原因のある疾病の予防を目的としている。」と、「問題点を解決するための手段」として、「下着の下部内側に、大腸菌などに対して死滅効果を有する布状物を使う。」と、「作用」として、「内側の布状物が抗菌性をそなえているため、肛門よりの漏出などにより細菌が付着しても、死滅するか、増殖することがなく、病気になる危険性を激減することができる。」とそれぞれ記載され、これに続いて、「実施例」として、「図における下着(1)の前よりうしろに至る下部(2)は、通常複層になっているので、その内側となるところに次の(A)による抗菌性の布状物(3)、または同様によるトリコット、または同様によるジャージー、同様によるメリヤスなどを使い、その外側に普通のメリヤス・・・など(4)を使い、下着を形成するのである。」とし、(A)として、「S社による抗菌性ゼオライトを、原料段階において混入されたK社のBXNナイロン糸」やこれを用いた布が大腸菌、肺炎かん菌、黄色ぶどう状球菌、枯草菌を死滅又は減少させる効果を持ち、洗濯後でも高い有効率を維持すること、また、これらの抗菌糸や抗菌布は、三日月印のハイターの使用により、抗菌力の賦活をすることができるとされていること、BXNナイロン糸に急性毒性や変異原性はなく、皮膚貼付試験の結果も良好であることが公的に明らかにされていること、本願発明は、ショーツの他に、ガードルや種々の用途の下着などに使うことができることが記載され、「発明の効果」として、「下着(1)の下部(2)につき、その内側に、抗菌性の布状物(3)などを使うことにしたため、付着した細菌に原因のある炎症や、細菌の逆行侵入による疾病を予防できることになった。」と記載され、図面(甲第2号証図面、甲第9号証の3補正の内容(5))には、その第1図には下着の正面図が、第2図には第1図の(2)部分の拡大側断面図が図示されていることが認められる。

本願明細書及び図面のこれらの記載からすると、本願発明は、すでに知られていた抗菌性ゼオライトを原料段階において混入された抗菌糸を用いた抗菌布などの布状物や編組状物、マット状物を下着の前より後ろに至る下部の内側に使用し、これにより、付着した細菌に原因のある外炎や細菌の逆行侵入による腎疾患を予防できるものであることが明らかである。

3  この抗菌性ゼオライトを用いた抗菌糸あるいは抗菌布や編組状物などについては、特開昭59-133235号公報(乙第9号証)に、ゼオライト粒子含有高分子体及びその製造方法の発明が開示され、そこには、「ゼオライト粒子含有高分子体はゼオライト本来の機能をも合わせ持っているので、抗菌性とゼオライト本来機能とを合わせて利用することが可能である。例えばゼオライトの本来機能の吸湿・吸着効果と抗菌効果の複合効果を利用することができる。」(同号証7頁右下欄5~10行)、「例えば繊維の場合であれば金属-ゼオライトを含有しない繊維と混紡、混織したりあるいは交織・交編することにより、風合や機能を広く変更した抗菌性繊維構造物とすることが可能である。」(同7頁右下欄19行~8頁左上欄3行)と記載され、また、特開昭60-181002号公報(同第10号証)に、ゼオライトを担体とする抗菌性組成物及びその製造方法の発明が開示され、そこには、「天然または合成ゼオライトを担体とする微細な粒子よりなる抗菌性組成物が種々の媒体中で安定であり、抗菌力、抗菌効果の持続性、耐水性、耐熱性等の点でも公知の殺菌剤に比較して多くの利点があり、さらに広い分野での利用の可能性があることを見出し・・・本発明に到達した。」(同号証2頁右下欄8~14行)、「本発明の抗菌性組成物を天然繊維、不織布・・・などに添加したり、または接着剤等を介して上記の素材の表面に付着させて抗菌性を付与する」(同6頁左上欄17行~右上欄2行)と記載されており、これらの記載と本願明細書の上記記載によれば、上記公報に記載されたゼオライト粒子含有高分子体又はゼオライトを担体とする抗菌性組成物が、本願発明にいう抗菌性のあるゼオライトと同じものを意味するものと解され、両者が異なるものであることを認めるに足りる証拠はない。

そうすると、本願発明における抗菌性のあるゼオライトを練り込み又は付着固定された繊維や布状物、編組状物、マット状物などは本願出願前、周知のものであったと認められ、審決が、「抗菌性をもつゼオライトとこれを練り込んだ繊維自体は、本願明細書中にも引用されているように、BXNナイロン糸などとして周知のものであるから、ゼオライトにさらに抗菌性を付与したものを使用して、その効果を高めるようなことは、当業者にとって容易になしえたものである」(審決書6頁4~10行)としたことに誤りはないというべきである。

以上の事実によれば、前示相違点に示された引用例発明1、2の抗菌性の有無が不明なゼオライトを練り込み又は付着固定された布状物、編組状物、マット状物などに代えて、上記周知の抗菌性のあるゼオライトを練り込み又は付着固定された布状物、編組状物、マット状物を下着の前より後ろに至る下部の内側に使用すれば、その抗菌性により、外炎や細菌の逆行侵入による腎疾患を予防できることになり、本願発明の構成及び効果が得られることは明らかである。

したがって、本願発明は、引用例発明1、2に上記周知技術を適用して、当業者であれば容易に発明をすることができたものといわなければならない。

また、引用例3、4に審決認定の技術事項(審決書3頁10行~4頁12行)が記載されていることは原告も認めるところであり、これによれば、審決認定のとおり、「引用例3、4には、殺菌(抗菌)と防臭とを備えた物質を使用することにより、清潔で衛生的に保つことができることが示され」(同6頁2~4行)ているということができる。

以上によれば、審決が、上記周知技術を前提にして、「本願発明は、引用例1~4に記載された発明に基づいて容易になしえたもの」(同7頁6行~7行)とした判断を誤りということはできないものといわなければならない。

4  上記説示のとおり、本願発明は、引用例発明1、2に上記周知技術を適用することにより、当業者が容易に発明をすることができたと認められるのであるから、その他原告が審決を論難するところは、仮にそれが原告主張のとおりであったとしても、審決の結論の当否に影響を及ぼすものではないものと認められ、原告主張の審決取消事由は、結局、理由がないことに帰する。

5  よって、原告の本訴請求を棄却することとし、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 牧野利秋 裁判官 芝田俊文 裁判官 清水節)

平成4年審判第9467号

審決

岐阜県岐阜市木造町11番地

請求人 佐藤保郎

昭和62年特許願第298781号「外炎や逆行による腎疾患を予防できる下着」拒絶査定に対する審判事件(平成1年9月13日出願公開、特開平 1-229801)について、次のとおり審決する。

結論

本件審判の請求は、成り立たない。

理由

本願は、昭和62年11月26日の出願であり、その特許請求の範囲には、

「抗菌性のあるゼナライトを練り込みまたは付着固定された布状物、編組状物、マット状物などを下着の前よりうしろに至る下部(2)の内側に使用された外炎や逆行による腎疾患を予防できる下着」

と記載されている。

これに対して、原査定の拒絶の理由で引用された特開昭49-25126号公報(以下、引用例1という。)には、

ゼオライトを60メッシュのパウダーにしてバルブ等植物繊維系紙類、合成紙類、合成繊維類、綿等天然繊維類に充填し、おむつ、パンティストッキング、下着類、使い捨てパンティなどを製造すること、および、このようにすると、人体より発散する汗臭、分泌液臭、腐敗臭等、し尿臭(アンモニア)、糞臭の臭気をゼオライトの特徴である脱臭、脱水作用によってすみやかに吸着除去し、清潔で健康な状態を保つことができるものであることが、

実願昭53-162281号(実開昭55-80301号)の明細書および図面のマイクロフイルム(以下、引用例2という。)には、

ゼオライトを含む吸着脱臭紙を股間部に装着できるようにしたパンティと、このようにすることにより、日常健康衛生面での不快な体臭、特に股間部の脱臭ができることなどが、

実願昭58-79658号(実開昭59-185206号)の明細書および図面のマイクロフイルム(以下、引用例3という。)には、

前面と後面とを連結する股部内面に硫化銅を付着した繊維糸を含む添布を設けた肌着パンツと、この際硫化銅は、防臭と抗菌効果があるので、このようにすることにより雑菌の繁殖を防ぎ、悪臭の発生を防止することができるものであることなどが、

実願昭51-169233号(実開昭53-88315号)の明細書および図面のマイクロフイルム(以下、引用例4という。)には、

本体の特に身体下部と対応する部分へ、オリゴジナミー効果を有する金属繊維で織成した織布を内布で覆って装置したパンティと、この際オリゴジナミー効果を有する織布を使用するのは、殺菌、防臭効果を有するので、身体下部を衛生的に保つことができるものであること(オリゴジナミー効果は、織布を構成する例えば銀、銅がそれ自体のイオン状態でごく微量で微生物を殺す殺菌作用を有するので、このような作用をオリゴジナミー効果と称している。)などが、

それぞれ記載されている。

そこで、本願の発明と、引用例1、2に記載された発明とを対比する。

引用例1、2に記載されたものも、本願のものもゼ才ライトを練り込みまたは付着固定された布状物、編組状物、マット状物などを下着の前よりうしろに至る下部の内側に使用した下着であるから、この点で両者は一致するが、本願では、抗菌性のあるゼオライトを使用して、外部の炎症や腎疾患を予防するのに対し、引用例1、2では、ゼオライトについて抗菌性があるのかどうかについて明記するところがなく、脱臭、脱水作用により臭などを吸着除去し、清潔で健康な状態を保つという点で、一応相違している。

引用例1、2では、人体より発散する汗や分泌液などの臭気をゼオライトの脱臭、脱水作用により吸着除去し、清潔で健康な状態に保つもので、清潔を阻害する原因物質を吸着除去することにより、雑菌の繁殖を防止あるいはしにくくするものである。

一方、本願では、抗菌性をゼオライトに付与し、清潔を阻害する原因物質を吸着除去するとともに雑菌を殺菌するあるいはその繁殖を防止し、結果として清潔で健康な状態にするものである。

そうすると、両者は、清潔で健康な状態に保つという点で、実質的な相違はみられない。

しかし、効果上多少差が出てくるとした場合には、ゼオライトにさらに抗菌性を付与した点であろう。

引用例3、4には、殺菌(抗菌)と防臭とを備えた物質を使用することにより、清潔で衛生的に保つことができることが示され、また、抗菌性をもつゼオライトとこれを練り込んだ繊維自体は、本願明細書中にも引用されているように、BXNナイロン糸などとして周知のものであるから、ゼオライトにさらに抗菌性を付与したものを使用して、その効果を高めるようなことは、当業者にとって容易になしえたものであると認められる。

なお、請求人は、本願が容易になしえたとするならば、すでに商品化されていていいはずであるが、そのような事実はないなどと主張しているが、特許法第29条で規定する特許要件は、第1項で、公然知られた発明、公然実施をされた発明、刊行物に記載された発明については特許を受けることができないとし、第2項で、これらの発明から容易になしえた発明についても特許を受けることができないとされており、同条第2項の場合で、刊行物に記載された発明から容易になしえた発明というとき、その容易になしえた発明が商品化されているかどうかなどということは法律上何ら関係ないことである。したがって、この請求人の主張自体何ら根拠のないものである。

上述したように、本願発明は、引用例1~4に記載された発明に基づいて容易になしえたものであって、特許法第29条第2項に該当し、特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。

平成5年7月22日

審判長 特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

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